岡口分限決定Ⅱに対する批判 令和2年度重要判例解説を入手しました

岡口分限決定Ⅱに対する批判  川岸令和早稲田大学教授によるものです 
令和2年度重要判例解説3頁(有斐閣

 

「本決定(=岡口分限決定Ⅱ)のように,「品位を辱める行状」を広範に定義することは,裁判官が生き生きと活躍する司法にふさわしいかは疑問である。
 日本国憲法の下では裁判官は違憲審査権を行使する可能性があり,その権能は反多数性を本来的な特徴としており,その行使は理論上多数の国民の直接的な信頼とは合致しないことも多いはずである。
 本決定のように「品位を辱める行状」を広範に定義してしまうと,裁判官をして標準的な裁判官像に収斂させ,自由闊達な裁判官活動を抑止する効果を伴いかねない。
 しかも,本決定は,前決定(=岡口分限決定Ⅰ)に続き,表現の自由を真剣に捉えようとする姿勢に欠けていることが懸念される。
 表現の自由の歴史は,その権利は高尚な表現の擁護と少なくとも同程度に馬鹿げたもの,眉をひそめるもの,反社会的なものの保護に意を用いてきたことを示す。だからこそ表現の自由は深刻な苦悩をもたらすのである。ジャンクなものの擁護が表現の自由の本質の少なくとも一部を占めることと真摯に向き合っての判断であろうか。文面からはそのような葛藤は読み取れない。品位を辱める行状の広範な定義とともに,表現を委縮させる効果は絶大である。
 また,裁判官の懲戒処分を行政処分と解し,その裁判を公開の法廷で行わなくても構わないとする先例の再考も必要であろう。司法が政治部門と異なる究極の拠り所はデュープロセスの徹底した保障にあるはずであり,それが司法の独立性の担保に寄与しよう。」


*岡口分限決定ⅠⅡは,いずれも,「品位を辱める行状」を「職務上の行為であると,純然たる私的行為であるとを問わず,およそ裁判官に対する国民の信用を損ね,又は裁判の公正を疑わせるような言動をいうもの」と定義しています。