町村泰貴成城大学法学部教授のご意見です

 

 

 

 

 

ツイートで訴追の仙台高裁裁判官の職務停止を決定 弾劾裁判所 | NHKニュース https://www3.nhk.or.jp/.../20210811/k10013195111000.html
なんと、驚いた。
この弾劾裁判所の手続の恐ろしいところは、一切の不服申立の余地がないことだ。
今までの裁判官弾劾裁判の事例というのは、少なくとも私が物心ついてからは、異論の余地なくトンデモ裁判官を追放するものだったし、不服申立ての必要性を考えることもなかった。微妙だったのは、贈賄された谷合克行判事補のケースで、しかしまあ結論的には罷免しかないと納得の事例だ。
それらは、裁判官の行動に萎縮効果があるからといって危惧する必要はなく、むしろそういうことしそうになったらどんどん萎縮しろといって問題ないケース(収賄、被告人に交際迫る、児童買春、ストーカー、盗撮など)ばかりだった。
これに対して裁判官の言動が問題となった今回のケースは別だ。
それが本当に 職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠ったとき(1号)、または、職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったとき(2号)に該当すると言えるのかどうかを、とりわけ上位法である憲法76条や三権分立の趣旨に照らして判断しなければならない。その判断には、最高裁の判断の可能性がないところで下される重大な憲法判断でもあることを考慮して、国権の最高機関たる地位にふさわしい手続と実体的理由付けが求められる。
そして職務執行停止決定については、普通は当該裁判官の弾劾事由の有無に関する結論が出る前にする仮の措置であって、そのまま当該裁判官に職務を続けさせたら回復困難な損害が生じるという場合に発動されるもののはずだ。
訴追されたら自動的に発動されるべきものではない。
世の中には、従業員が逮捕起訴されたら休職という起訴休職制度をとっているところが多く、そのようなものという理解もあるかもしれないが、それは他の機関(裁判所)の判断待ちで自分では白黒判断できないからであり、白黒つける裁判機関が、その判断を先取りするようなことは本来すべきでない。
もちろん企業内や行政庁内での懲戒処分に先立って、処分が決まるまで職務担当から外すということはあり得る。それ自体、追って沙汰するまで謹慎せよみたいな、江戸時代的な匂いを感じるが、処分権者が処分する過程なのだから、結論ありきの処遇を最終判断前にすることもあるかもしれない。
しかし裁判官にとっての国会の弾劾裁判所は、公平に弾劾事由の有無を判断する中立的第三者であり、それも先に書いたような、他の機関への不服申立の余地もなく憲法判断を本来全部引き受けているはずの最高裁判所のチェックも及ばないような判断をする機関なのだから、訴追委員会の訴追を頭から是として、処分対象裁判官に不利益な処遇、結論ありきの処分をすべきではない。
要するに、今までのケースでは、事案も結論もあまりにも明らかなものばかりだったので、手続的な公正さは問題視されなかったが、賛否の分かれる事例が出てきて、初めて、手続的公正さにも目がいくようになったのである。
岡口さん個人には気の毒な事態の推移だが、制度論を進める上では貴重な事例でもある。