島田広弁護士「岡口裁判官問題から考える裁判官の独立と市民的自由」

島田広弁護士「岡口裁判官問題から考える裁判官の独立と市民的自由」が、

法と民主主義2019年12月号【544号】に掲載されました

https://www.jdla.jp/houmin/backnumber/pdf/201912_01.pdf

https://www.jdla.jp/houmin/index.html

 

岡口基一裁判官のツイッターを理由とする懲戒反対運動に取り組んだのは、原発差止訴訟などを担当し、司法の重大な責任放棄を目の当たりにして、裁判官の表現の自由の明白な侵害を放置できないと思ったからである。国際的にも少数者を大事にすることが求められている中、 「誰一人取り残さない司法」をめざし司法を変える一大運動が必要であるとの思いを強くした。」

 

またもや結論出せず 裁判官訴追委員会

臨時国会は閉幕しましたが、前国会に続き、岡口裁判官訴追申立てについての結論は先送りになりました。

こんなにいつまでも判断ができないのは極めて異例です。

 

 

裁判官訴追審査事案(202事案)について審議を行い、2事案は継続して審議することとし、その他の200事案は訴追しないことに決定しました。

 

www.sotsui.go.jp

市川正人立命館大学教授が「岡口分限決定」を厳しく批判されています

市川正人立命館大学教授が「岡口分限決定」を厳しく批判しています。
民商法雑誌155巻4号804頁
以下,内容を要約してみます。

1 「品位を辱める行状」の意義について
 岡口分限決定は,裁判官の懲戒事由である「品位を辱める行状」について,純然た
る私的行為を含めて,「裁判官に対する国民の信頼を損ねる言動」又は「裁判の公正
を疑わせる言動」のことをいうと判断しました。
 しかし,これらの概念は,非常に広範囲の言動を含むため不明確です。調査官解
説によると,この判断は,「裁判官は人格的にも一般国民の尊厳と信頼を集めるに足
りる品位を兼備しなければならない」という,学者(上村千一郎)の指摘を踏まえた
ものであるとのことですが,「人格的にも」という概念も不明確といえます。
 これでは裁判官は,一般人が裁判官にいだくイメージに沿うようにしか私生活を送
れないことになりますが,裁判官イメージは人によって様々ですし,ネット時代
では,裁判官の私生活がネットで拡散されることもあり得ますから,結局,裁判官は
目立たぬように息を殺して生きていくしかなくなります。
 およそ裁判は浮世のもめ事を裁くものであるのに,浮世から超絶した裁判官がそう
した浮世のことが理解できるのでしょうか。
 市民感覚を有した,人間と社会に対する十分な洞察力を持った裁判官を育てるため
には,裁判官の懲戒処分は,明らかな非行がある場合に限るべきです。
2 本件への当てはめについて
  岡口分限決定は,本件ツイート(犬のツイート)について,「犬の飼主による訴
訟提起を不当と考えていること」を示すものと受け止められるとの事実認定をしてい
ますが,これは疑問です。本件ツイートを読んでそのようなことを思う人がいるので
しょうか。すでに多くの学者が同様の指摘をしています(曽我部真裕教授,堀口悟郎
准教授,山元一教授,渡辺康行教授等)。
 また,岡口分限決定は,「本件ツイート」について,「犬の飼主による訴訟提起を
揶揄するものともとれるその表現ぶり」に着目しています。「揶揄する表現」ならと
もかく,「揶揄するものともとれる表現」ですら戒告処分になってしまうのであれ
ば,裁判官は安心して表現行為を行うことができなくなるでしょう。
 さらに,宮崎裕子判事らの補足意見は,本件ツイートが「ラストストロー」にすぎ
ない,つまり,麦わら一本程度のものにすぎないことを白状してしまっています。
 このように,本件ツイートが「品位を辱める行状」に当たると判断したことには相
当な無理があると言わざるを得ません。
3 その他の問題
(1) 岡口分限決定は,裁判官の表現の自由について何ら判断しておらず,戒告処
分の憲法21条1項適合性の論証がないに等しいといわざるを得ません。本件におい
憲法的な思考がどのように働くのかが全く可視化されていないのです。

 これでは,裁判官の中で「物言えば唇寒し」の風潮が益々強まりかねません。
(2)また,岡口分限決定は,被申立人の手続保障という点でも問題でした。寺西判
事補事件の際には,この点にも配慮したことが決定の中でも述べられていましたが,
本件ではそれが全く不十分でした。最高裁1審限りの判断で,それに対する異議を述べる
機会もなかったにもかかわらずです。
(3)裁判官の私生活上の行動について市民から批判を受けないように努める義務を
認める岡口分限決定は,結果的に,私生活上の行動だけで裁判官訴追委員会での審査
の対象にもなるという先例を作ってしまいました。岡口分限決定の論理が,裁判官,
裁判所に対する政治的な関与,介入を助長することへの危惧も覚えざるを得ません。

孤立無援 たった一人で国会と戦っている裁判官

某弁護士の先生が、弁護士ドットコムのサイトに次のような投稿をされました

 

「岡口裁判官のツイート事件を岡口裁判官の表現の自由の問題だと捉える人は多いけれども、司法権独立との関係で捉える人はほとんどいません。
問題点を列記しておきます。
1 憲法は法曹一元を要請しているが、現実には、戦前の官僚裁判官制度が継続している。
2 下級裁判所裁判官の任期制と官僚裁判官制度という木に竹を接いだ制度のため、裁判官の身分保障は、ほぼ空文になっている。
3 大審院から、新たに最高裁を頂点とする裁判所組織が発足したとき、司法権独立運動を担っていた裁判官は事実上追い出され、戦犯と言うべき裁判官は公職追放もされずに残った。
4 旧司法省の官僚は、最高裁事務局に引き継がれ、勢力を維持した。その象徴が、司法省の人事課長から最高裁の人事係長(後の人事課長)を経て、最高裁長官になった石田和外氏である。
5 官僚は、司法官僚を含め、新憲法下の国民に対する奉仕者意識ではなく、戦前からの天皇の官僚意識を引き継いでいる。最高裁長官や事務総長等が大嘗祭に参列することが象徴的。
6 司法官僚は、行政官僚と異なり、旧時代の遺物である特別権力関係に服させられている。
7 日本全体が、司法権独立(裁判官の独立)の重要性に無関心で、憲法学者ですら、あまり関心がないように見える。韓国の大法院が元徴用工に新日鉄住金に対する損害賠償請求権を認めたことについて、日本政府が韓国政府を批判し、マスコミが同調している現状が象徴的。明治時代の児島惟謙大審院長ほどの見識もない。
8 国会の裁判官訴追委員会が岡口裁判官の事件を調査すること自体が司法権の独立を侵害するものだという認識が日本のどこにもない。

岡口裁判官事件は、裁判官個人の問題ではなく、日本の司法権の問題であり、それに対し、岡口裁判官がほとんど孤立無援で闘っていると、私には思えます。」

「洗脳発言」報道について

 

 

第1 「洗脳発言」報道について

 私が,フェイスブックで「遺族が東京高裁に洗脳されて」などと記載したことについて,先週の金曜日に読売新聞が一報を出し,「後追い」として,産経新聞及び共同通信で報道がされました。

 この件は,ある性犯罪に係る刑事判決書(以下「本件判決書」といいます)が最高裁のウェブサイトに掲載されていることを,その被害者の遺族の方が,私のツイート(以下「本件ツイート」といいます)で知り,本件ツイートのコメント欄に,遺族の了解なしに本件判決書がネット上にアップされていることへの不満を記載したことから始まっています。

 その後,遺族の方々は東京高裁に抗議に行かれましたが,私は,林道晴東京高裁長官(当時)から,遺族との接触を厳禁するとの長官命令を受けました。遺族に伝えるべき情報は東京高裁が伝えるということでしたので,私は,吉崎佳弥東京高裁事務局長(当時)に対し,「本件ツイートは,刑法上の重要論点が含まれている高裁判決がなされたことを,私のアカウントの主要読者である法律家に向けて周知するためにしたものであるが,その論点中に現れる語句(「死体との姦淫」)の使用を避けるために,ツイートの本文では事件の内容を短文で説明するだけにとどめて当該判決サイトのリンクを貼ることにした。その判決サイトに論点の説明がされていたからである」などの話をしました。なお,このころ,裁判所では,性犯罪に関する下級審判決書は最高裁のウェブサイトには掲載しないとの内規が作られていましたが,この内規はあまり守られておらず,実際に,性犯罪に関する下級審判決書は,現在でも,多数掲載されたままになっています。

 その後,遺族の方々と東京高裁との交渉が続きましたが,それを経て,遺族の方は,「本件判決書がネット上にアップされることは何ら問題がない。事件のことを世の中に広く知ってもらい,今後のために役立ててもらうことは被害者としても望ましい。」という趣旨のコメントを出しました(毎日新聞が報道)。

 ところが,このように本件判決書の掲載について遺族の方々の理解が得られたにもかかわらず,東京高裁は,私が本件ツイートをしたことについて厳重注意処分としました。この注意処分は,書面によってされたにもかかわらず,本件ツイートがいかなる理由で非違行為に当たるものなのかを何ら明らかにされていませんでした。その後,私は最高裁判所において分限決定(以下「岡口分限決定」という。)を受け,その決定書においても,上記の書面による厳重注意処分がされたことが認定されていますが,そこでも,本件ツイートがいかなる理由で非違行為に当たるかの理由は記載されていません(しかもこの決定書の補足意見で、宮崎裕子最高裁判事らは、理由も明らかにせずに、本件ツイートをした私を厳しく批判しました)。

 今年に入り,遺族の方々は,裁判官訴追委員会に,私の罷免を求める申立てをしました。その後に遺族の方が繰り返しツイートされているところによると,申立ての理由は,私が本件ツイートによって本件判決書を「拡散」したことが非違行為に当たるとのことです。この時点で私は初めて,遺族の方がいかなる理由で本件ツイートを不当と考えられているのかを知ることができました。遺族の方々は,やはり、本件判決書がネット上で拡散されたことを一番嫌がっておられたのです。

 そして,その後,いろいろなことがわかってきました。遺族の方々が,私が本件ツイートをした目的について全くご存じなかったということもわかりました。東京高裁は,私を遺族と遮断しておきながら,私が最も伝えてほしい情報を遺族に伝えていなかったのです。

 このことは,東京高裁が,私と遺族の接触を禁じたうえで,東京高裁に都合のいいことだけを遺族に説明し,私一人を悪者に仕立て上げたのではないかという疑念を生じさせました。

 内規に違反して性犯罪に関する本件判決書をアップしてしまったのは東京高裁です。遺族も,当初は,本件判決書がネット上にあることを批判していたのです。

 ところが,遺族は,東京高裁との交渉を経た結果,東京高裁が本件判決書をアップしたことは何も悪くない,悪いのは私一人であるという考えに完全に変わり,現在では,裁判官訴追委員会に私の罷免を求めるのみならず,その賛同を求めるために今年の8月にはネット上での署名活動まで始められています。私が東京高裁を通じてした謝罪の申入れを拒否しておきながら,今年3月のNHKの取材に対しては,私が早く謝罪をしなかったのが問題であると答えられています。早く謝罪しようにも,本件判決書は被害者の名前、犯行場所等は隠されて何の事件なのかわからないようにされていますし,わかったとしてもその遺族の方の連絡先などわかるはずがありません。

 このような経過があったことから,私は,遺族の方々の考え方は東京高裁によって大きく変えられたのではないかと疑い,これを「東京高裁による洗脳」と表現したものです。ただし,この表現は語句の選択が適切でないことが明らかであるため,私は,その後,この表現を撤回し,関係者の方々への謝罪をしています。

 ところで,西川伸一教授の推測によると,東京高裁は,その頃,私のツイートによる情報発信自体を止めさせようとしており,そのためのチャンスをうかがっていました。そういう中で,まさに遺族の方々による上記抗議が行われました。東京高裁は,この抗議を最大限利用しようとした可能性もあります。書面による厳重注意処分すればツイートによる情報発信自体をやめるであろうと考えたというわけです。もしそうだとすると、東京高裁が遺族感情を利用したということになります。現在は,遺族と私が,訴追申立人と訴追被申立人の関係となっているのですが,私が戦うべき相手は,矢面に立っている遺族の方々ではなく,その後ろに隠れている東京高裁や,その思いどおりの報道をしてしまうマスコミなのかもしれません(ある時,吉崎事務局長は,私を事務局長室に呼んで,数日後に私のことが某新聞で報道されると予告してくれました。マスコミと東京高裁事務局長はしっかりとつながっているのです)。戦うのであれば、遺族の方々と戦うのではなく、私が本来の敵を相手にすべきなのです。「洗脳」という言葉をあそこで使ってしまったのは,私に対する攻撃の手を緩めない遺族の方々にも早く目を覚ましてもらいたいという思いも込められていたのかもしれません。

第2 補足:被申立人の手続保障

 さて,ここからは別の話をしたいと思います。現在,裁判官訴追委員会で審理がされている私の訴追についてです。ここでは,本件ツイートと,岡口分限裁判の対象となった犬のツイートが審理対象になっています。

 実は,岡口分限裁判の最大の問題点は,あの犬のツイートがいかなる理由で非違行為に当たるのかが何ら明らかにされないまま裁判が進められたことです。そのため,私や弁護団は,手探りで防御するしかありませんでした。刑事裁判で例えると,被告人の行為が何罪に当たるのかが明らかにされないまま裁判が進んでいるような感じです。

 裁判所は,自分たちが判決をする際には「使用者が労働者を処分した手続に問題がある」などと偉そうに説示しているくせに,いざ,自分たちが職員を処分する際には,こんなにも手続保障に無頓着なのだと唖然としたものです。

 犬のツイートについても,本件ツイートについても,関係者を傷付けるものであるから非違行為に当たると思われている方がいるかもしれませんが,「他人を傷付ける」というだけの理由で表現を事後的に批判するのでは,表現の萎縮を招くだけであるというのは私が繰り返し述べてきたところです。表現行為は必ず誰かを傷つけるものだからです。下記のとおり最高裁もそのような理由で非違行為に当たるとはしていません。また,本件ツイートのうち当該事件の内容を紹介した文言が性犯罪被害者を気付けるものであったため問題であったと思われる方がいるかもしれませんが,それでは,性犯罪に係る事件の内容を紹介すること自体が許されなくなってしまいますし,遺族の方も,そのツイートや署名活動において,そのことを問題にしているわけではありません(遺族の方が問題にされているのは,本件判決書の「拡散」です)。

 犬のツイートがなぜ非違行為に当たるのかは,最高裁決定が出て初めて明らかになりました(しかし,最高裁決定はそのまま確定しますから,その後,こちらはそれを争うこともできません)。この犬のツイートは,原告による「訴訟提起」を裁判官が非難していると国民に思わせるから非違行為に当たるというのが最高裁の結論でした。しかし,このような最高裁の奇妙な判断に対しては,多くの学者が疑問としており,私も拙著「最高裁に告ぐ」の中で厳しく批判しています。

 私が現在訴追されている裁判官訴追委員会でも,同じことが問題になっています。本件ツイートも,なぜ非違行為に当たるのかがわからないまま審理が進んでいるのです。手掛かりは遺族の方のツイートですが,それでも,本件判決書を拡散することがどうして非違行為に当たるのかということまではわかりません。

 私は,ここでも,被申立人としての十分な手続保障が与えられないまま,決定の日を待っているというわけです。

第3 最後にマスコミの皆さんへ

遺族と東京高裁との上記交渉について毎日新聞が報道し続けていた頃に,私は殺人予告を受けています。休日であるにもかかわらず,吉崎事務局長から連絡が入り,丸の内署が捜査をしているが気を付けてほしいということでした。その日は,長男及びその彼女と夕食を共にする予定であったのですが,家を出るのは危ないということで,その予定をキャンセルせざるを得ませんでした。報道された側には,そういうリスクも発生します。マスコミの皆さんには,そういうことも考えていただければと思います。

 

 

東京高裁長官からのパワハラに屈しなかったことを司法修習生らが評価(^_^)

司法修習生らの本音トークがされており、その中で現れます

 

熊田:僕は司法試験の勉強で要件事実マニュアルを使っていました。持っている修習生もたくさんいます。

犬飼:「ブリーフ裁判官」のイメージが強いですが(笑)、権力に屈しない姿には純粋に憧れます!もっともっと発信していってほしいです。

 

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