分限裁判の記録 岡口基一

分限裁判の記録です。研究者の方向け

「洗脳発言」報道について

 

 

第1 「洗脳発言」報道について

 私が,フェイスブックで「遺族が東京高裁に洗脳されて」などと記載したことについて,先週の金曜日に読売新聞が一報を出し,「後追い」として,産経新聞及び共同通信で報道がされました。

 この件は,ある性犯罪に係る刑事判決書(以下「本件判決書」といいます)が最高裁のウェブサイトに掲載されていることを,その被害者の遺族の方が,私のツイート(以下「本件ツイート」といいます)で知り,本件ツイートのコメント欄に,遺族の了解なしに本件判決書がネット上にアップされていることへの不満を記載したことから始まっています。

 その後,遺族の方々は東京高裁に抗議に行かれましたが,私は,林道晴東京高裁長官(当時)から,遺族との接触を厳禁するとの長官命令を受けました。遺族に伝えるべき情報は東京高裁が伝えるということでしたので,私は,吉崎佳弥東京高裁事務局長(当時)に対し,「本件ツイートは,刑法上の重要論点が含まれている高裁判決がなされたことを,私のアカウントの主要読者である法律家に向けて周知するためにしたものであるが,その論点中に現れる語句(「死体との姦淫」)の使用を避けるために,ツイートの本文では事件の内容を短文で説明するだけにとどめて当該判決サイトのリンクを貼ることにした。その判決サイトに論点の説明がされていたからである」などの話をしました。なお,このころ,裁判所では,性犯罪に関する下級審判決書は最高裁のウェブサイトには掲載しないとの内規が作られていましたが,この内規はあまり守られておらず,実際に,性犯罪に関する下級審判決書は,現在でも,多数掲載されたままになっています。

 その後,遺族の方々と東京高裁との交渉が続きましたが,それを経て,遺族の方は,「本件判決書がネット上にアップされることは何ら問題がない。事件のことを世の中に広く知ってもらい,今後のために役立ててもらうことは被害者としても望ましい。」という趣旨のコメントを出しました(毎日新聞が報道)。

 ところが,このように本件判決書の掲載について遺族の方々の理解が得られたにもかかわらず,東京高裁は,私が本件ツイートをしたことについて厳重注意処分としました。この注意処分は,書面によってされたにもかかわらず,本件ツイートがいかなる理由で非違行為に当たるものなのかを何ら明らかにされていませんでした。その後,私は最高裁判所において分限決定(以下「岡口分限決定」という。)を受け,その決定書においても,上記の書面による厳重注意処分がされたことが認定されていますが,そこでも,本件ツイートがいかなる理由で非違行為に当たるかの理由は記載されていません(しかもこの決定書の補足意見で、宮崎裕子最高裁判事らは、理由も明らかにせずに、本件ツイートをした私を厳しく批判しました)。

 今年に入り,遺族の方々は,裁判官訴追委員会に,私の罷免を求める申立てをしました。その後に遺族の方が繰り返しツイートされているところによると,申立ての理由は,私が本件ツイートによって本件判決書を「拡散」したことが非違行為に当たるとのことです。この時点で私は初めて,遺族の方がいかなる理由で本件ツイートを不当と考えられているのかを知ることができました。遺族の方々は,やはり、本件判決書がネット上で拡散されたことを一番嫌がっておられたのです。

 そして,その後,いろいろなことがわかってきました。遺族の方々が,私が本件ツイートをした目的について全くご存じなかったということもわかりました。東京高裁は,私を遺族と遮断しておきながら,私が最も伝えてほしい情報を遺族に伝えていなかったのです。

 このことは,東京高裁が,私と遺族の接触を禁じたうえで,東京高裁に都合のいいことだけを遺族に説明し,私一人を悪者に仕立て上げたのではないかという疑念を生じさせました。

 内規に違反して性犯罪に関する本件判決書をアップしてしまったのは東京高裁です。遺族も,当初は,本件判決書がネット上にあることを批判していたのです。

 ところが,遺族は,東京高裁との交渉を経た結果,東京高裁が本件判決書をアップしたことは何も悪くない,悪いのは私一人であるという考えに完全に変わり,現在では,裁判官訴追委員会に私の罷免を求めるのみならず,その賛同を求めるために今年の8月にはネット上での署名活動まで始められています。私が東京高裁を通じてした謝罪の申入れを拒否しておきながら,今年3月のNHKの取材に対しては,私が早く謝罪をしなかったのが問題であると答えられています。早く謝罪しようにも,本件判決書は被害者の名前、犯行場所等は隠されて何の事件なのかわからないようにされていますし,わかったとしてもその遺族の方の連絡先などわかるはずがありません。

 このような経過があったことから,私は,遺族の方々の考え方は東京高裁によって大きく変えられたのではないかと疑い,これを「東京高裁による洗脳」と表現したものです。ただし,この表現は語句の選択が適切でないことが明らかであるため,私は,その後,この表現を撤回し,関係者の方々への謝罪をしています。

 ところで,西川伸一教授の推測によると,東京高裁は,その頃,私のツイートによる情報発信自体を止めさせようとしており,そのためのチャンスをうかがっていました。そういう中で,まさに遺族の方々による上記抗議が行われました。東京高裁は,この抗議を最大限利用しようとした可能性もあります。書面による厳重注意処分すればツイートによる情報発信自体をやめるであろうと考えたというわけです。もしそうだとすると、東京高裁が遺族感情を利用したということになります。現在は,遺族と私が,訴追申立人と訴追被申立人の関係となっているのですが,私が戦うべき相手は,矢面に立っている遺族の方々ではなく,その後ろに隠れている東京高裁や,その思いどおりの報道をしてしまうマスコミなのかもしれません(ある時,吉崎事務局長は,私を事務局長室に呼んで,数日後に私のことが某新聞で報道されると予告してくれました。マスコミと東京高裁事務局長はしっかりとつながっているのです)。戦うのであれば、遺族の方々と戦うのではなく、私が本来の敵を相手にすべきなのです。「洗脳」という言葉をあそこで使ってしまったのは,私に対する攻撃の手を緩めない遺族の方々にも早く目を覚ましてもらいたいという思いも込められていたのかもしれません。

第2 補足:被申立人の手続保障

 さて,ここからは別の話をしたいと思います。現在,裁判官訴追委員会で審理がされている私の訴追についてです。ここでは,本件ツイートと,岡口分限裁判の対象となった犬のツイートが審理対象になっています。

 実は,岡口分限裁判の最大の問題点は,あの犬のツイートがいかなる理由で非違行為に当たるのかが何ら明らかにされないまま裁判が進められたことです。そのため,私や弁護団は,手探りで防御するしかありませんでした。刑事裁判で例えると,被告人の行為が何罪に当たるのかが明らかにされないまま裁判が進んでいるような感じです。

 裁判所は,自分たちが判決をする際には「使用者が労働者を処分した手続に問題がある」などと偉そうに説示しているくせに,いざ,自分たちが職員を処分する際には,こんなにも手続保障に無頓着なのだと唖然としたものです。

 犬のツイートについても,本件ツイートについても,関係者を傷付けるものであるから非違行為に当たると思われている方がいるかもしれませんが,「他人を傷付ける」というだけの理由で表現を事後的に批判するのでは,表現の萎縮を招くだけであるというのは私が繰り返し述べてきたところです。表現行為は必ず誰かを傷つけるものだからです。下記のとおり最高裁もそのような理由で非違行為に当たるとはしていません。また,本件ツイートのうち当該事件の内容を紹介した文言が性犯罪被害者を気付けるものであったため問題であったと思われる方がいるかもしれませんが,それでは,性犯罪に係る事件の内容を紹介すること自体が許されなくなってしまいますし,遺族の方も,そのツイートや署名活動において,そのことを問題にしているわけではありません(遺族の方が問題にされているのは,本件判決書の「拡散」です)。

 犬のツイートがなぜ非違行為に当たるのかは,最高裁決定が出て初めて明らかになりました(しかし,最高裁決定はそのまま確定しますから,その後,こちらはそれを争うこともできません)。この犬のツイートは,原告による「訴訟提起」を裁判官が非難していると国民に思わせるから非違行為に当たるというのが最高裁の結論でした。しかし,このような最高裁の奇妙な判断に対しては,多くの学者が疑問としており,私も拙著「最高裁に告ぐ」の中で厳しく批判しています。

 私が現在訴追されている裁判官訴追委員会でも,同じことが問題になっています。本件ツイートも,なぜ非違行為に当たるのかがわからないまま審理が進んでいるのです。手掛かりは遺族の方のツイートですが,それでも,本件判決書を拡散することがどうして非違行為に当たるのかということまではわかりません。

 私は,ここでも,被申立人としての十分な手続保障が与えられないまま,決定の日を待っているというわけです。

第3 最後にマスコミの皆さんへ

遺族と東京高裁との上記交渉について毎日新聞が報道し続けていた頃に,私は殺人予告を受けています。休日であるにもかかわらず,吉崎事務局長から連絡が入り,丸の内署が捜査をしているが気を付けてほしいということでした。その日は,長男及びその彼女と夕食を共にする予定であったのですが,家を出るのは危ないということで,その予定をキャンセルせざるを得ませんでした。報道された側には,そういうリスクも発生します。マスコミの皆さんには,そういうことも考えていただければと思います。

もっとも,今回の読売の報道は,私が一番言いたかったことを,この記事にまとめて,多くの方に読んでもらえる契機になりましたので,そういう意味ではとても感謝しております。ありがとうございました。