大分県弁護士会の会長声明です

https://www.oitakenben.or.jp/data/statement/1643332145409.pdf

 

岡口基一裁判官に対する弾劾裁判所への訴追についての会長声明

裁判官訴追委員会は、仙台高等裁判所判事である岡口基一裁判官の罷免を求めて
訴追し、弾劾裁判所は、これを受理した上で、裁判官弾劾法39条に基づいて、岡
口基一裁判官の職務を停止しました。
本声明は、同裁判官のSNSでの発信行為や発言を決して肯定するものではあり
ません。同裁判官の発信行為や発言に関係された方々の心情も十分に尊重すべきこ
とは当然であります。しかしながら、憲法上保障された司法権の独立の趣旨や、こ
れまでに裁判官が弾劾裁判により罷免された事例との権衡等の観点から、弾劾裁判
所に対し、同裁判官を罷免しないことを求めるものです。
憲法76条3項は、「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、
この憲法及び法律にのみ拘束される」と定めています。これは、司法権の独立及び
裁判官の職権行使の独立を保障するもので、これにより裁判官の職権行使が外的圧
力に屈しないようにしています。そして、憲法78条は、「裁判官は、裁判により、
心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の
弾劾によらなければ罷免されない」とし、裁判官につき強固な身分保障を定めてい
ますが、これは、司法権の独立及び裁判官の職権行使の独立を担保するための規定
です。
裁判官の罷免事由は、「職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠つた
とき」及び「その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非
行があつたとき」(裁判官弾劾法2条)とされていますが、裁判官の職権行使の独立
を担保するためには、この罷免事由は厳格に解釈されなければならず、犯罪ないし
それと同視しうる行為であり、それ自体が裁判官にあるまじき明白な非違行為であ
り、裁判官の職責への信頼を著しく失墜させる行為があったときと解釈すべきです。
3 このような憲法及び裁判官弾劾法の趣旨を受け、過去の具体的事案においても、
罷免事由は厳格に解釈されていました。
 過去に弾劾裁判所に訴追された事件は9件ありますが、そのうち罷免された7件
の事案は、収賄、公務員職権濫用、児童買春、ストーカー行為、盗撮等、犯罪行為
ないしそれと同視しうるような行為です。これらはいずれも当該行為自体が明白な
非違行為であり、裁判官の職責への信頼を明らかに失墜させるものばかりです。
 これに対し、今般訴追対象とされている同裁判官のSNSでの発信行為や発言は、
決して肯定されるものではありませんが、犯罪行為やそれと同視しうるような行為
ではなく、これらの訴追対象行為が罷免事由に該当しないことは明白です。
したがって、本件事案で罷免を認めることは、罷免事由の厳格解釈の観点及び過
去の先例に照らしても、明らかに権衡を失するものというほかありません。
4 以上から、当会は、弾劾裁判所に対し、過去の先例で踏襲されてきた厳格な解釈
を維持し、同裁判官を罷免しないことを求めます。
2022年(令和4年)1月28日
 大分県弁護士会
会 長 渡 辺 耕 太