最高裁に提出する主張書面 確定版です

コメント欄にいただいたご指摘をとりいれて、「煽り」系の記載はほとんど削除したり、表現の自由についての記載を追加するなど、内容を修正しましたm(__)m。

 

昨日,この内容で,東京地裁の地下の郵便局から郵送しました。

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平成30年(分)第1号

      主 張 書 面
                           平成30年8月30日
 最高裁判所 御中
                  被申立人   岡  口  基  一           


               目     次   
第1 「裁判官に対する懲戒申立書」の申立ての理由に対する認否
第2 表現行為の特定について
第3 本件申立てが表現の自由を侵害するものであることについて
第4 今後の主張疎明の予定等について

第1 「裁判官に対する懲戒申立書」(以下「本件申立書」といいます。)の申立ての理由に対する認否
1 本件申立書の申立ての理由における事実の主張は,大きく三つの部分に分けることができます。
 一つは,私が,平成30年5月17日頃に,裁判官であることを他者から認識できる状態でツイッターのアカウントを利用したこと,
 一つは,私が,そのアカウントにおいて,同日頃に,犬の返還請求に係る民事訴訟(以下「本件訴訟」といいます。)についてのツイート(以下「本件ツイート」といいます。)をしたこと,
 一つは,本件ツイートを公開して本件訴訟の原告の感情を傷付けたことです。
以下,この三つの部分についてそれぞれ認否をします。
2 裁判官であることを他者から認識できる状態におけるツイッターアカウントの利用について
 本件申立書の申立ての理由において,「被申立人は,裁判官であることを他者から認識できる状態で,ツイッターのアカウントを利用し,」と記載されている部分です。
「裁判官であることを他者から認識できる」というのは,ある事実に対する評価であって,具体的事実そのものではありません。どのような具体的事実に対して,このような評価をしたのかが明らかでないため,この部分についての認否は,否認とするほかありません。
なお,仮に,私がこれまでにした約7万3000個のツイートの中に,私が裁判官であることをうがわせる内容のものが数個あったとしても,そのツイートにたどり着くことは極めて困難です。ツイッターは一覧性に劣っており,1つ1つ遡る形でしか過去のツイートを見ることはできません。過去のツイートを見るためには,スクロールをし続けなければならず,あまりにも時間がかかるため,通常は,そこまでして過去のツイートを見ようとはしないからです。とりわけ,私のように毎日20個近くのツイートをするアカウントを閲覧する場合,昔のツイートに遡るといっても限度があります。時間がかかりすぎるからです。
3 本件ツイートをしたことについて
 本件申立書の申立ての理由のうち,私が本件ツイートをした部分については,表現行為の特定の点で問題があるため,認否は否認とします。その詳細は,下記第2において主張しますが,ここでは,本件ツイートの内容について確認しておきたいと思います。
 本件ツイートは,「公園に放置されていた犬を保護し育てていたら,」で始まります。この文章の主語が本件訴訟の被告であることは明らかです。公園に放置されていた犬を保護して育てていたのは本件訴訟の被告だからです。
 この文章の主体である本件訴訟の被告に対し,本件訴訟の原告が,名乗り出てきて,「返してください」と話しかけます。この発言の主語が本件訴訟の原告であることも,「もとの飼い主」との記載から明らかです。
 これに対し,本件訴訟の被告は「え?」っと聞き返します。そして,「あなた?この犬を捨てたんでしょ?3か月も放置しておきながら・」と反論します。
 ここまでが,いわば「予告編」です。そして,「裁判の結果は・・」との記載は,いわば,予告編から本編に入ることを示しており,その記載の次にあるURLのリンクをクリックし,リンク先の記事を読むことで,本件訴訟の詳細を知ることができるという構造になっています。ちなみに,リンク先の記事は,私が関与していない確定判決についてのものであり,当事者の氏名等の個人情報も一切現れません。
4 本件ツイートを公開して本件訴訟の原告の感情を傷付けたことについて
本件申立書の「傷付けた」という表現が,法律家が用いる表現としては,やや稚拙な表現であることは否めません。しかし,その点をさておくとしても,この部分についても,否認をせざるを得ません。
 というのは,本件ツイートの公開という事実のうちのどの点がどのような理由で本件訴訟の原告の感情を傷付けたのかが,申立ての理由において明らかでないからです。
ここでも具体的な事実の記載が不足していることを指摘することができます。申立書では,被申立人が,その意味を理解して認否することができる程度に,申立ての理由を具体的に記載しなければならないというべきです。 
5 本件申立書における結論部分は,「被申立人の上記行為は,裁判所法49条所定の懲戒事由に該当し,懲戒に付するのが相当である」というものですが,この点については,争います。
 申立ての理由に記載された行為のいかなる点が,どのような理由で,裁判所法49条所定の懲戒事由に該当するのかが明らかでないからです。
 いろいろな可能性を想像することはできますが,その「想像」が正しいとは限りません。被申立人が,懲戒理由書を読んでも,どのような理由で懲戒の申立てをされているのかわからないというのでは,被申立人に対する手続保障がされたとはいえません。
理由がわからない懲戒申立てがされて,被申立人がその理由がわからないまま懲戒処分がされるのであれば,手続保障の問題のみならず,憲法違反の可能性も生じるというべきです。
第2 表現行為の特定について
1 本件ツイートは,「予告編」の記載に続けて,「本編」部分の記事のリンクを貼っており,リンクの中身を取り込んだ,或いは,読者がリンク先の記事を読むことを前提とした表現行為になっています。
これに対し,表現行為の後に,単なる「参考ウェブサイト」として,リンクが貼られることもあります。この場合のリンクは,参考のために貼られているものにすぎず,表現行為を構成するものではありません。
2 本件ツイートは,「本編」部分の中身も取り込んだ表現行為であるため,本件ツイートによってした表現行為を特定するためには,「本編」部分の記事を特定する必要があります。
 ところが,本件申立書の「申立ての理由」では,リンクを貼った記事のURLが記載されていませんから,私のした表現行為が正確に記載されたものとはいえません。そこで,私は,「申立ての理由」のうち,私のした表現行為について記載した部分についても,否認せざるを得ません。
 なお,表現行為は,その一部だけを切り取ると,全く別の意味になることがありますから,表現行為の一部だけを切り取って,その部分のみを非違行為とすることは絶対に許されないというべきです。
3(1) リンク先の記事を表現行為に取り込むということについては,具体例で説明した方がわかりやすいと思います。
 私は,2008年からツイッターを続けており,毎日,20個程度のツイートをしていましたから,単純計算でも,これまで,7万3000個のツイートをしたことになりますが,その中から,一例を用いて説明したいと思います。
(2) 私は,過去に,こういうツイートをしたことがあります。

 「心は「ちんちん」の近くにあるんだね。
  https://twitter.com/seikoito/status/651419764699480066

 このツイートは,本文だけを読むと,とても品のない文章のように思われます。
 ところが,貼られているURLをクリックすると,そこには,いとうせいこうさんの,次のようなツイートが現れます。

「祖父江さんが『こころ』の装丁した時の話、面白かった。「心」の象形文字が心臓より「ちんちん」に似てることにこだわり、古代中国で心が丹田にあったことを突き止める。」

 また,このいとうせいこうさんのツイートには,その象形文字の画像も添付されており,それを夏目漱石が初版に用いたことなども説明されていますが,その画像は,確かに,幼児が描いた男性器のような形をしています。
(3) このように,上記の私のツイートは,リンクの中まで読むと,「ちんちん」というのが,ブックデザイナーである祖父江慎さんが用いた表現であり,しかも,当該象形文字の説明としてぴったりな表現であることがわかるのです。
(4) また,上記の私のツイートは,読者を驚かせるという効果も狙っています。
 上記の私のツイートを見た読者は,私が「ちんちん」という下品な表現をしていることに,最初は,とても驚きます。
 ところが,リンクの中まで読むと,私が下品な表現をしたのではなく,記事の内容を適切に要約したにすぎないことがわかるのです。
 このように,読者を,一瞬,或いは,一見驚かせた上で,リンクの中を見せることでその「種明かし」をするという手法は,私が10年間,繰り返し行ってきた手法であり,読者は,そのカラクリ自体を楽しんできました。
(5) しかしながら,私のツイートのうち,URLの部分を削除し,「心は「ちんちん」の近くにあるんだね。」の部分だけを表現行為であるとしてしまうと,私が,とても下品な表現行為をしたものと評価されかねません。
 そして,現に,上記の私のツイートは,私が最初に厳重注意処分を受けたとき,品のないツイートであるとして問題視されたことがあるのです。
 その際,このツイートは,「心は「ちんちん」の近くにあるんだね。」の部分だけが切り取られ,私がした品のないツイートの一例として,東京高等裁判所の事務局が作成した報告書に載せられ,当時の東京高裁長官に提出されました。
 このように,表現行為の一部だけが切り取られ,あたかも私がとても品のないツイートをしているかのような印象を東京高裁長官に与えるということが,東京高等裁判所の事務局によってされたことが過去にあるのです。
(6) なお,厳重注意処分に対しては,不服申立ての機会が与えられません。
そうであれば,私が過去に2回厳重注意処分がされたということを今回の分限裁判において考慮することは,一事不再理原則に反して許されないのみならず,手続保障の見地からも許されないというべきです。
 上記の厳重注意処分の際には,裁判所職員が,私の過去のツイートをしらみつぶしに調べて,それをリストアップして文書を作成しました。その文書にはマーカーがいくつも引かれ付箋が大量に貼られていました。そして,そのリストの中には,私が,ツイッター上ではすぐに削除した,いわば「書き損じ」にすぎないツイートを,裁判所職員がツイログから「発掘」したものまで含まれていました。
「書き損じ」まで厳重注意処分の対象にすることは相当でないと思われますが,不服申立て手段がないため,私には,そのような主張をする機会すらなかったのです。
第3 本件申立てが表現の自由を侵害するものであることについて
1 本件申立ては,私が林道晴東京高等裁判所長官(以下「長官」といいます。)から長官室で厳しく叱責された直後になされたものです。
 私は,長官から,長官室に呼ばれ,ツイッターを止めなさいと強く迫られました。そのときの状況は,本件において申立人が提出している「報告書」(平成30年7月4日付け吉崎佳弥東京高等裁判所事務局長(以下「事務局長」といいます。)作成の東京高等裁判所分限調査委員会宛のもの)にも記載されています。
 実際の長官の発言は,この陳述書に記載されているような穏やかなものではなく,大変に厳しい口調での叱責でしたが,その点はさておいて,この陳述書の記載に従って主張したいと思います。
2 本件ツイートがいかなる理由で問題があるのかは,申立人の主張が明らかではないところですが,仮に何らかの問題があったとしても,それを理由に,ツイッターにおけるツイートを全て止めさせるというのでは,表現の自由の侵害に当たることは明らかです。
私は,もちろん,このような理不尽な要求を拒否しました。私は,自分の権利すら守れない法曹が,他人の権利を守れるはずがないと考えているからです。
 なお,雑誌「週刊現代」は,本年9月6日号127頁において,最高裁判所当局が,国会に対し,私のツイッターを止めさせることを約束したと報じていますが,その真偽は私にはわかりません。
3 私がツイッターを止めることを拒否したところ,長官は,それならば,分限裁判にかけるしかないと言い始めました。「報告書」においても,長官が私に対し「ツイートを続けるということであれば,それを前提にして分限裁判を検討せざるを得ない。」「これからは分限裁判も含めて検討することになる。」などと繰り返し告げたことが記載されています。
 また,「報告書」にも記載があるとおり,同席していた事務局長が,私に対し,「これまでとは違う局面に入ることを予告されているのは認識できているか」「ツイートを止めれば,それはそれで一つの姿勢を示すことになるというアドバイスをもらってのは認識できているか」「そのアドバイスを断ったという認識はあるか」と尋ねました。私がツイートを止めると言わなかったため,これまでとは違う局面,すなわち,分限裁判に入る旨を長官が予告されたものであることを,事務局長が解説してくれたのです。
4 さらに,「報告書」に記載があるとおり,長官は,私に対し,「仮に裁判官を辞めることになってもツイートは止めないのか」と尋ねました。これは,私がツイートを止めなければ裁判官を辞めることになる旨を告げて,私を脅したものです。
もちろん,分限裁判で裁判官を免職させることはできませんが,本件において戒告又は過料の裁判がされた後に,長官が,そのことを理由に私に圧力をかけて,心理的に辞職に追い込む意思があることを明らかにしたものと私は受け取りました。
5 なお,「報告書」において,長官は,私が本件訴訟の判決書の原文を確認しないまま本件ツイートをしたこと非難していますが,ネット上で報道されたにすぎない,事件番号も当事者名もわからない事件について,関係者以外の者が,その判決書の原文を読むことができないことは明らかです。完全に個人情報が隠されており,それを推知することもできない裁判に関する記事であっても,判決書の原文を読まなければその裁判についてツイートすることができないというのであれば,およそ裁判に関するツイートはできないといわざるを得ません。
6 以上のとおり,本件申立ては,私がツイートを止めないことから,これを止めさせるための手段としてなされたものですから,本件申立てそのものが,私の表現の自由を侵害する違憲・違法なものというべきです。 
第4 今後の主張疎明の予定等について
1(1) 裁判所法49条では,「裁判官は,職務上の義務に違反し,若しくは職務を怠り,又は品位を辱める行状があったときは,別に法律で定めるところにより裁判によって懲戒される。」と,複数の懲戒事由が規定されています。
 また,裁判官分限法7条によると,懲戒の裁判をするには,その原因たる事実及び証拠によりこれを認めた理由を示さなければならないとされています。
(2) これらの規定によると,懲戒の申立てにおいては,その原因たる事実及びそれを立証する資料を明らかにした上で,当該事実が,裁判所49条の定める懲戒事由のうちのどの事由に当たるのかを明らかにしなければならないというべきです。
(3) ところが,本件申立書は,私が本件ツイートをした行為が「裁判所法49条所定の懲戒事由に該当する」としか記載されておらず,それを立証する資料の存在も明らかにされていませんから,私の行為のうちのどの部分が,同条所定のどの事由に当たると主張するのかが全く明らかでありません。
 このような懲戒申立書では,認否反論のしようがありませんから,申立人に対し,補正を促し,又は,補正命令を発することで,被申立人が認否や反論ができる程度にまで,申立ての内容を明確にさせるべきです。そうでなければ,本件は,被申立人に対する手続保障がされたとは到底いえません。
(4) 私が,本件申立書の画像をインターネットに掲載したところ,多数のアクセスがありました(すでに50万アクセスを超えています。)が,申立ての内容が抽象的すぎて,どのような懲戒事由に当たるのかわからないとのご意見をいただきました(この主張書面も,インターネットで公開しています。)。
2 今後,申立人の方で,私が認否や反論ができる程度にまで申立ての内容を明確にすれば,それを受けて,私の方で,その内容に応じて,必要な反論や疎明をしていきたいと考えています。
3 最後に一言だけ申し上げておきたいことがあります。本件訴訟の原告が東京高等裁判所の窓口に来られたのは,本件訴訟に係るネット記事がこれ以上拡散しないように,本件ツイートの削除を求めるということが主眼であったと思われます。それにもかかわらず,東京高等裁判所当局は,本件訴訟の原告の希望に沿って当該情報の拡散を防ぐどころか,本件をマスコミにリークした際に,本件訴訟の内容まで明らかにしてしまったため,本件訴訟は,全国紙やテレビで報道され,日本中の国民の知るところになってしまいました。本件訴訟に係る情報の拡散を防止したいという本件訴訟の原告の希望を明確に認識しながら,本件訴訟の内容をリークすることで,報道機関に大々的に報道をさせたことは,とても不適切な対応であったといわざるを得ません。       
                             以   上