最高裁判所に提出予定の「主張書面」です(その1)

 

最高裁判所に対して,8月31日までに主張書面を提出することが求められていますので,その内容を公開したいと思います。3回に分けて公開をします。

まだ提出前ですので,ご指摘等あれば教えていただければ幸いです。

 

 

 

 

 

平成30年(分)第1号

            主 張 書 面
                           平成30年8月28日
 最高裁判所 御中
                  被申立人   岡   口   基   一           
               目     次   
第1 「裁判官に対する懲戒申立書」の申立ての理由に対する認否
第2 表現行為の特定について
第3 審問期日の指定について
               本     文
第1 「裁判官に対する懲戒申立書」の申立ての理由に対する認否
1 本件の申立ての理由における事実の主張は,大きく三つの部分に分けることができます。
 一つは,私が,平成30年5月17日頃に,裁判官であることを他者から認識できる状態でツイッターのアカウントを利用したこと,
 一つは,私が,そのアカウントにおいて,同日頃に,犬の返還請求に係る民事訴訟(以下「本件訴訟」といいます。)についてのツイート(以下「本件ツイート」といいます。)をしたこと,
 一つは,本件ツイートを公開して本件訴訟の原告の感情を傷付けたことです。
以下,この三つの部分についてそれぞれ認否をします。
2 裁判官であることを他者から認識できる状態におけるツイッターアカウントの利用について
(1) 懲戒申立書の申立ての理由において,「被申立人は,裁判官であることを他者から認識できる状態で,ツイッターのアカウントを利用し,」と記載されている部分です。
「裁判官であることを他者から認識できる」というのは,ある事実に対する評価であって,具体的事実そのものではありません。どのような具体的事実に対して,このような評価をしたのかが明らかでないため,この部分についての認否は,否認とするほかありません。
(2)  司法研修所では,司法修習生が,起案に「原告と被告は虚偽表示をした」との記載をすることがありますが,これに対し,司法研修所教官は,これでは具体的な事実の主張とはいえないとして,「原告と被告は合意を仮装した」などと書き直させます。
 申立書等の裁判文書においては,評価や法的主張に先立ち,まず,その基礎となる事実を記載するというのは,裁判文書作成の「いろは」の「い」であるため,司法研修所教官は,司法修習生に対し,この点について,厳しく指導をしています。
3 本件ツイートをしたことについて
 申立ての理由のうち,この部分については,表現行為の特定の点で問題があるため,認否は否認とします。その詳細は,下記第2において主張しますが,この段階では,本件ツイートの内容について確認しておきたいと思います。
 本件ツイートは,「公園に放置されていた犬を保護し育てていたら,」で始まります。この文章の主語が本件訴訟の被告であることは明らかです。公園に放置されていた犬を保護して育てていたのは本件訴訟の被告だからです。
 この文章の主体である本件訴訟の被告に対し,本件訴訟の原告が,名乗り出てきて,「返してください」と話しかけます。この発言の主語が本件訴訟の原告であることも,「もとの飼い主」との記載から明らかです。
 これに対し,本件訴訟の被告は「え?」っと聞き返します。そして,「あなた?この犬を捨てたんでしょ?3か月も放置しておきながら・」と反論します。
 ここまでが,いわば「予告編」です。そして,「裁判の結果は・・」との記載は,いわば,予告編から本編に入ることを示しており,その記載の次にあるURLのリンクをクリックし,リンク先の記事を読むことで,本件訴訟の詳細を知ることができるという構造になっています。ちなみに,リンク先の記事は,確定判決についてのものであり,当事者の氏名等の個人情報は一切現れません。
4 本件ツイートを公開して本件訴訟の原告の感情を傷付けたことについて
「傷付けた」という表現が,法律家が用いる表現としては,やや稚拙な表現であることは否めません。しかし,その点をさておくとしても,この部分についても,否認をせざるを得ません。
 というのは,本件ツイートの公開という事実のうちのどの点がどのような理由で本件訴訟の原告の感情を傷付けたのかが,申立ての理由において明らかでないからです。
ここでも具体的な事実の記載が不足していることを指摘することができます。申立書というものは,被申立人が,その意味を理解して認否することができる程度に,申立ての理由を具体的に記載しなければなりませんが,それは,一般常識でもわかることだと思います。 
5 本件申立書における結論部分は,「被申立人の上記行為は,裁判所法49条所定の懲戒事由に該当し,懲戒に付するのが相当である」というものですが,この点については,争います。
 申立ての理由に記載された行為のいかなる点が,どのような理由で,裁判所法49条所定の懲戒事由に該当するのかが明らかでないからです。
 いろいろな可能性を想像することはできますが,その「想像」が正しいとは限りません。被申立人が,懲戒理由書を読んでも,どのような理由で懲戒の申立てをされているのかわからないというのは,前代未聞のことだと思いますし,被申立人に対する手続保障という観点からも問題があるといわざるを得ません。
理由がわからない懲戒申立てがされて,被申立人がその理由がわからないまま懲戒処分がされるのであれば,憲法違反の可能性も生じるというべきです。

                              (「第二」に続く)